理想と新思想が暴走する19世紀アメリカ

大雑把に言って、人類は19世紀に様々な社会的な思想を生み出して、20世紀にそれらを実験してみて、ほとんど全部失敗した。

18世紀末から19世紀は、加速する科学技術の進歩で世の中も考え方もどんどん変わって、下層社会の住人たちが若干の豊かさを手に入れて、中間層が生まれ始めた時代だった。このおかげもあって、変わる世界に対して人々はむしろ好意的で問題は解決可能だとの考えていたようで、様々な「改良運動」が生まれた。今も人気がある田園都市構想なんかもそうなんだけど、「現代の都市はダメだ」というニュアンスよりは、都市に人口が集まって拡大するならこういう方向に拡大するべきという感じで。もっとずっと純粋で前向きで理想に燃えてしまっていたのが19世紀だった。

19世紀の思想は今から見るとアリエナイ

いろんな失敗を経験してきた21世紀初頭の人間だったら、まずやらないようなことも実際にやってみてしまっている。アメリカ独立(アメリカ人はフランス革命と同じ市民革命だからと、アメリカ革命と呼ぶ)とかフランス革命とかもそうだし、王様(大統領)を選挙で選ぼうという共和制とかもそうで、もうちょいマイナーなものでは、アメリカの反知識人運動(反知性主義運動)なんかもそうだ。

反知性主義って知ってる?

 反知性主義はトランプ政権のおかげでまた注目されているけど、基本的には「権威のある人の意見より、普通の人の普通の感覚が大切だろう」という誰でも納得しそうな主張だ。ところが独立戦争が終わって上昇ムードだった19世紀のアメリカでは「自活力のある一人前の人間(プロテスタント白人男性)なら、どんな専門教育を受けた専門家とも互角の力を持っている。よって専門家は不要というところまで暴走する。

 そもそも反知性主義のターゲットだった専門家とは聖職者のことで、神学校で勉強していなくても神の声を聴けば誰でも説教師になれるという運動だったのだが、とばっちりを受けたのが、このころの庶民が接する数少ない専門教育を受けた専門家である医師だった。近代以前、医学教育は文献を大学で学ぶ内科医、徒弟制で鍛え上げる町医者の外科医と二分されていたのだが、18世紀も終わろうというころにようやく病院という舞台で一緒に学ぶようになり、医学校というものも登場して、アメリカでも「学校で勉強した医者」が診療をはじめていたのだ。

改めて書くように(いつ書くのかな)、そういう医師の治療もめちゃくちゃだったこともあり、一般の人々も誰でも病人の治療ができるべきだとする代替医療の主張を支持したので、とうとう開業に医師資格は不要というところまで行ってしまった。

これをポピュラーヘルス運動という。そして、アメリカで近代代替医療の大繁栄が始まるのだ。

 

アメリカだけ?

権威の構造がもっとしっかりしていたヨーロッパでは、理想と改良に共感して運動を起こす人々はいたが、アメリカのような大規模な暴走はなかったらしい。ただ、統一国家になるのが遅く、イギリスに追い付け追い越せと工業化を猛烈に急いだドイツからはいくつもの近代代替医療が生まれて、その多くがやがてアメリカに渡っている。

ドイツもプロテスタントの分派やカルトが多く、宗教革命後新天地を求めてアメリカに渡ったドイツ系移民も多かったので、代替医療の布教には好都合だったらしい。

逆にアメリカで始まった超越主義の影響を受けたのが同じ英語圏のイギリスで、アメリカ、イギリス、ドイツの三国では工業化社会がもたらす、過密化し、膨張する都市、環境問題、貧困問題などを背景に、影響しあいながら、19世紀ならではの理想を追い求める改良運動が盛んになっていく。

 

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