フェミニストの私が、魔女になることを諦めた理由 - wezzy|ウェジー

このあたりの孫引きが「子宮系」とか「おまたなんちゃら」

2018/04/12 09:11

 「昔はよかった」幻想というのがあるが、単に年寄りの繰り言ではなく、人類が共通して持つ失楽園神話のバリエーションらしい。「楽園」はアブラハムの宗教と呼ばれるユダヤ教キリスト教イスラム教では「エデンの園」のことだが、日本に根付いている末法思想も同じような認識の神話だ。苦しい現実に対して無力さを感じるとき、逃避先を未来に想定するのは難しい。良かった昔からどんどん悪くなっていくのが必然と考えれば、昔はよかった、大昔はさらに良かったと考えるのが楽で自然なことなのだろう。

 その最高に良かった大昔の楽園を失ってしまった原因は女性だとエデンの園神話は説く。愚かなイブを根拠にすべての女は罪深く、男性に劣っていると言われ続けてきた女性たちが「女性解放」を考えたときに、神話からの解放を願って、自分たちのためになる神話を探したのも無理のないことだ。

 だが昔はよかった幻想はフェミニズムを作った女性たちもしっかりと捉えて離さなかった。過去にさかのぼり、女性が男性より優位であった楽園を探せば探すほど、深く神話に捕らわれていき、理想的な神話を作ろうとすれば、どんどん現実離れしたものになってしまう。その神話の説得力を増そうと歴史に根拠を求めればニセ科学、偽歴史が生まれる。

 日本で女性たちを感激させた「元始、女性は太陽であった」もこの神話の一つだ。日本神話のアマテラスが本当に女神なのかという点については様々な議論があり、単純に過去には女性がリーダーだったというのは実は難しい。それなのに、まっとうな歴史学も倭の女王卑弥呼を探し求めてしまう。

(歴史における卑弥呼像は女性から男性への権力移譲という神話を伴うので、割と最近まで男性が圧倒的多数派世界だった歴史学でも人気があるのかなと考えている。)

 

日本に限らず、どれほど歴史を遡って行っても、おそらくフェミニズムが夢見るような社会は存在しないだろう。人類の妊娠期間と出産の困難さ、長い子育て期間という現実から言って、女性の活動範囲はどうしても限られたものになってしまうのだ。

機動力の高い男性と動けない女性がペアを作ることで人類の生存はなんとか成り立ってきた。女性に有利な神話や宗教は男性に消されたから残ってこなかったのではなく、

そもそもないのだろうというのが私の理解だ。

そうやって女性を物理的に縛ってきた妊娠出産を崇めるように価値観を変え、尊いものを内包する女性である自分の自己評価を高めようという試みは、現実に足場のない都合の良い幻想にならざるを得ない。

自分が信じたいものが真実であり、そういう真実を信じるというニューエイジスピリチュアリズムとの相性はぴったりで、子宮を温めたり、膣にパワーストンを入れたり、というトンデモが派生してくる。

男性原理の神話世界に居場所がないから、女性であることに安らげる神話を作ろうというアイディアは良くても、現実的にはエンパワメントを謳うビジネスの場になってしまっているわけで、心の安らぎと強さを得ても、現実へのインパクトはすごく弱い。これはダメだろう。

だから私も魔女系フェミニズムの目指すものは十分理解した上で、魔女集会には参加しない。オカルト的な想像力を刺激してくれる点は大いに楽しんでいるのだが。