若葉が街に 急に萌えだした

 特に努力をするということもなく日々を過ごしていると、週2回のデイケアリハビリの送迎車で町の風景を見るだけということになりがちだ。

 下町の路地を巡って、利用者を拾っていく一種の定点観測だから、見慣れた建物がとうとう取り壊しになって、何の違和感もなく新しいマンションが建ったりするのを知るのもいつものことだ。が、その日のメンバーによっては、滅多に通らないような町の深部にも入っていくので、大通りに面した表しか知らなかった建物の裏はこうなっていたのか、こんなところにこんな店があったのかと新たに発見することもそれなりにある。

 GWを迎えた今は、鮮やかな新緑が目を引く。桜のころも、思いがけない場所に花が出現して驚かされるが、桜の薄桃色はほんのり明るい優しい空間を作っていて、今の時期の新緑のような鮮やかさはない。新緑が萌え出すと、ほの暗い路地の行き止まりを初夏の光そのもののような若い緑が照らし出す光景をあちこちで見ることになる。

 たぶん遊具も無いベンチだけの防災用の小さな公園に植えられた若木か、小さな祠を抱くように僅かな土地に立つ老木の今年の若葉なのだろう。

 大通りや旧街道の端に祀られるのは、道祖神馬頭観音、地蔵が多いが、下町の路地奥の祠は圧倒的に稲荷だ。現世に利益をもたらしてくれると人気のあった稲荷はうっかりすると祟る神でもあるので、一度勧請してしまうと動かすのが難しく、幾多の災害を乗り越えて今も町の深部に木と共にあったりする。輝く若葉は忘れるなと言うアピールのようにも思える。