菜食主義とインテリ

昨日のえるかふぇでは、19世紀に大流行した今から見るとぶっ飛んだ代替医療について話した。アメリカ人って何でもビジネスにしていくのだなあというあたりが面白いと思った私の興味とは別に、聞きに来てくださった方々に受けていたのがグラハムの話だった。

 

グラハムって全粒粉のグラハムクラッカーに名前が残っているグラハムで、たぶん白いパンは体に悪いと説き始めたのはこの人。そもそも清教徒の説教師で、宗教的な欲望に負けない生活こそ健康的という思想に基づいて、自分が推奨する生活スタイルを広めようとした。

 

食生活は肉を食べない菜食主義で、パンは全粒粉パンを食べ、酒は飲まない、コーヒーも、紅茶も飲まない。料理には食欲を刺激するスパイスを使わない。美味しいとか楽しいとか嬉しいとか思わないのが良い生活。セックスも月何回までとか制限付き。

 

普通だった反発されるはずなのが受けてしまったのは、開拓時代のアメリカじゃあ病気になってもそもそも医者がいないし、治療法もないから、簡単に死んでしまう。病気になりたくないという気持ちが、とても強かったんだろう。

 

アメリカではそんな風に割と素朴な人々の支持も受けていたベジタリアンだけれど、イギリスでは流行の改良主義を支持するいわゆる進歩主義のインテリのシンボルみたいになっていった。「フランケンシュタイン」を書いたメアリーシェリーの旦那の詩人のシェリーを中心にベジタリアン知識人のサークルができていたし、婦人参政権を求めて運動する女性活動家たちもみんなベジタリアンだった。現代から見るとよくわからないことになっていて私も最初何の話なのかさっぱりわからなかった。でも分かってみると英語圏の友人たちから感じた「リベラルでインテリなのに、なんでベジタリアンに反対なの?」という無言の圧力の理由がようやくわかった気がする。

 

我が家の食卓は、動物性植物性関係なく「タンパク質」と考えて、野菜はたくさんと考えていてこれでいいと思っているのだが、「動物性タンパク質は地球環境にも良くない」とベジタリアンは正義と考えている人との会話はアラカンには辛いので、なるべく避けて通りたいのであった。